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第1章 51 町の再建についての提案

last update Last Updated: 2025-08-16 10:44:13

 『クリーク』の町の人達による食事のおもてなしが終わったのは15時を少し過ぎた頃だ。

何しろ、町の人々がひっきりなしに私の元へやってきてはお礼を述べていくものだから、中々お開きにすることが出来なかったのだ――

****

「申し訳ございませんでした。王女様」

最後の町民の挨拶が終わると、町長さんが謝罪をしてきた。

「え? 何がですか?」

「いえ……お付きの方々はとっくにお部屋に戻られたのに、王女様だけ部屋に戻ることが出来ずに町民たちの話に付き合わせてしまいました。本当に申し訳ございません」

「あ……そのことですか?」

リーシャは後半、かなり疲れた様子を見せていたのでスヴェンと一緒に先に部屋に戻ってもらっているし、ユダをはじめとした『エデル』の兵士たちは私達とは違うテーブル席に着席していたので、とっくに食堂からいなくなっている。

つまり、私1人が『クリーク』の人達と最後まで一緒に食堂に居残っていたのだ。

「はい、町民たちがどうしても王女様とお話がしたいと言ってきかなかったものですから…」

そこで私は申し訳なさそうにしている町長さんに笑いかけた。

「そんなこと気にしないで下さい。『クリーク』の町の人々は全員、大切な領民です。戦争によって、この町は今後『エデル』の領地となりますが、私はこれからその国に嫁ぎます。なので今も、この先もこの町の人達は私にとって大切な領民達に変わりはありません。皆さんの話を聞くのは当然です。いいえ、むしろこのような席を設けて頂き、感謝しております」

「王女様……何て嬉しいお言葉を……」

その時、トマスがルカを連れて私の元へやってきた。

「王女様。ルカがどうしても王女様と話がしたいとのことで連れて来たのですが……よろしいでしょうか?」

その背後でルカは私と視線が合うと、深々と頭を下げてきた。

「ええ、大丈夫よ」

すると町長さんが2人に諭した。

「良いか? ルカ。王女様はお疲れなのだ。用件は手短にするのだぞ?」

「ええ、分かっております」

「なら良いが……では王女様。私はまだ片付けが残っておりますのでこれで失礼致します」

「ええ、ありがとう。町長さん」

恐らく、町長さんは気を利かせて席を外してくれたのだろう。

テーブルに3人だけが残されると、ルカは早速口を開いた。

「王女様、あの薬の原液は私がトマスから確かに受け取りました。このことは他の者達には決し
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